智慧と慈悲、そして限りなく純粋である自己の真の姿を知ろうとするなら、今この瞬間の他に敢えて外に探し求める必要はありません。実のところ、今のこの瞬間以外のどこにも、見出せないのです。ほんの少し立ち止まり、私達のすぐ目の前にあるものを認識するだけで充分なのです。これは実に重要なポイントです。なぜなら、瞑想は、今の自分を変えたり、より良い人間になろうとしたり、または、自己の破壊的な習性を取り除くことではないからです。瞑想は、私達が持っている根源的な善なるものを“今”というこの瞬間に認識するという学びであり、そして、この認識を、自己の姿の芯に浸透するまで培っていくことなのです。
ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ

ミンギュル・リンポチェ
ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ(Yongey Mingyur Rinpoche)は、著名な瞑想指導者トゥルク・ウゲン・リンポチェ(Tulku Urgyen Rinpoche)を父に1975年、チベットとの国境に近いネパールに生まれる。幼少の頃よりパニック発作に悩まされたことから、一人洞窟に籠って瞑想するなど、早くから瞑想に親しむ。その後父やその他瞑想の師より正式に瞑想を学び実践を重ね、12歳で第7世ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェの転生者と正式に認定される。3年間のリトリート(お籠り修行)を終えた直後、15歳の若さでインドのシェラプ・リン僧院の瞑想指導者に任命される。その頃にはパニック発作はすでに過去のものであった。
リンポチェの法話は、ご自身が克服された体験を踏まえて新鮮でユーモアあふれる語り口が特徴的だ。指導的立場になってからも20世紀の偉大な高僧たちから顕教と密教の教えの伝授を受け、更に瞑想修行を続ける。その後本格的な教化活動を開始し、現在は、ネパールやインド各地にある僧院の座主としての責務を果たすとともに、世界中の弟子たちを指導。テルガル瞑想コミュニティは2008年に設立され、現在世界各地に拠点を擁している。
もう一つのリンポチェの活動として、科学への関心が挙げられる。幼い頃父の下で瞑想修行をしていた著名な脳神経科学者 フランシスコ・バレーラ(Francisco Varela)教授の影響もあったことからこの方面での貢献も大きい。ダライ・ラマ法王をはじめとする宗教界の指導者や科学者たちが参加する「心と生命研究所(Mind & Life Institute)」主催の会議は、その草創期から中心的な存在として活躍。米国の脳科学者リチャード・デイビッドソン博士らによる瞑想の科学的研究の被験者としても協力している。
2011年6月、リンポチェは突如僧院を後にし、インドやネパールを中心に乞食行を開始。2015年11月に行を終える約4年半にわたるエピソードは「4年の放浪の修行を終えて」(Lion’s Roar、2016年2月)、「リトリートを終えて」(Lion’s Roar、2017年1月)、『In Love with the World』[2019]に詳しい。
著書
- 『今、ここを生きる(原題 The Joy of Living: Unlocking the Secret & Science of Happiness)』 [2007]
- 『The Joyful Wisdom』[2009]
- 『Ziji: The Puppy Who Learned to Meditate』[2009]
- 『Turning Confusion into Clarity』[2014]
- 『In Love with the World』[2019]
テルガルの系譜
仏教における“系譜”の概念(相承とも言う)は、教えが世代を超えて師から弟子に伝えられる伝授のつながりを指しており、源は共通ながら人々の多様性に対応して多くの系譜があります。系譜の概念は現代世界からすると異質に見えるかもしれませんが、精神的な系譜は無数の先駆者が蓄積した智慧と体験を保持するなどの重要な役割があり、次の新しい世代は覚醒のプロセスを一からやり直す必要はありません。系譜は教えの完全性を保持し、精神的な道の導師の方々が智慧と慈悲に十分に基づいていることを保証します。
テル(Ter)はチベット語で宝を表す言葉で、苦しみを和らげ、私たちの最も素晴らしい可能性を活性化し、究極的には悟りを完成させる智慧と方便を指しています。ガル(Gar)を訳せば集まることで、多くの人や要素が集うことを意味します。つまりテルガル(Tergar)とは、人々がこの至高なる宝を見つけるために集まる場所、またはその宝を見出す変容に必要な原因と条件を結びつける場として理解することができます。
ミンギュル・リンポチェのテルガルの系譜は、主にカルマ・カギュー派ですが、ニンマ派からの流れも受けて形成されました。歴史的には、カルマ・カギューの系譜は、主にカルマパ(カルマパ10世で始まる)とタイ・シトゥ・リンポチェ(8世から始まる)を通じて、ミンギュル・リンポチェの一連の化身に伝わりました。一方、ニンマの系譜は、テルマ(埋蔵経典)と様々なニンマ派とカギュー派の導師たちの交流を通してもたらされました。現在のミンギュル・リンポチェ7世は、カルマ・カギュー派の伝授を主にタイ・シトゥ・リンポチェとサルジェイ・リンポチェから授かり、ニンマ派の伝授は主にトゥルク・ウゲン・リンポチェとニョシュル・ケン・リンポチェから授かりました。
今日のテルガルの系譜は、この豊かな歴史を活用しつつ、そこに現在のミンギュル・リンポチェの独特のアプローチを加え、あらゆる背景や考え方を持つ人々が利用できるように、最新の教えの説き方を組み込んでいます。
